2023年01月28日

長患いで「何だかなー」って思っている思春期さんへお伝えしたいこと ――山本周五郎「石ころ」

思春期に長患いをすると
周りと比べて卑屈になったり、
焦りが苛立ちに拍車をかけて
自分の身の上を不運だと嘆いて
自暴自棄になったり。
どうして自分ばっかりこんな目に。
そういう風に思います。

そこで真正面に正論を説いてみたところで
思春期さんたちは決して耳を貸さない。
そして自分の作った狭い世界観の中だけで良い悪いを考えて
自分が自分を苦しめる。

そんな時、読んでほしいなと思うもの
山本周五郎の「石ころ」です。
私は時代物小説はどこか敬遠しがちで
藤沢周平の「山桜」とか一部の本しか手にしてこなかったけれど
今回、初めて窪田等さんのYouTubeの朗読で知りました。
<『石ころ』作:山本周五郎 朗読:窪田等>

松尾という名の女性を主人公に、
御隠居曲輪の縄屋の縁先で年頃の女性たちが
噂話に興じている様子から始まります。
最後は兄の凱旋祝いのために出かけたはずの実家で
図らずも松尾は夫の真実の姿を知るという展開で終わります。

うだつの上がらない極めて平凡で
ともすると人から馬鹿にされたり揶揄される対象であった人が
ごくありふれた石ころを「無くてはならないもの」と言う。
石ころが人の眼につかないところでじっと頑張っていることを知っていて
「そういう素朴さを学びたい」と言う。

若い人たちは何を感じるのかな。
人それぞれいろいろ得るものは違うだろうけれど
今見ている方向がすべてだとは思ってほしくない
そう感じるものでした。
いろいろなものにいろいろな価値がある。
その価値を気付く人もいれば
全く見過ごす人もいる。


私も高校生くらいの時にこの本に出会いたかったな。

あまり固いこと考えないで
窪田さんのとても良い波動の声と共に名作の世界を知るひと時も
それだけでも十分良いと思います。
耳慣れない歴史用語も出てくるけれど
何回も聞くと情景が浮かぶようになってきます。

長患いで「何だかなー」って思っている思春期さんへ
お伝えしたいなと思って。

2019年10月06日

縄文時代、四肢麻痺の女性を大切にお世話した人々の精神性 ―北海道・入江貝塚から考える

縄文時代後期約4,000年前、四肢麻痺がありつつも
10代後半まで寿命をまっとうすることのできた
北海道の10代女性(入江9号人骨)のお話(※1)

ご紹介しましたが、
彼女の生きていた場所にぜひ行ってみたいと思い、
2019年6月、1年半越しでようやく
北海道虻田郡洞爺湖町の入江貝塚に行ってきました。

現地で気持ち良い太陽の光の下、
遠くに噴火湾や山を見ながら
風に吹かれて立っていると
どうして四肢麻痺の女性が長い間
丁寧なお世話を受けながら生きることができたのか
いろいろ考えるきっかけができました。

近くの入江・高砂貝塚館には
入江貝塚から出土した
イノシシの犬歯でできた
装身具も展示されていました。
9号女性と直接関係があったわけではありませんが
同じC地点貝塚から出土したものです。
「イノシシ」「犬歯」その部分に着目すると
入江貝塚に住んでいた人々の精神性が
そこに現れているような気がしました。


入江貝塚、こじんまりとしたとても良い場所です。
今は史跡公園として整備されており
実際の貝塚断面や復元住居を見ることもできます。
ぜひ北海道洞爺湖に観光に行かれる方は
その前後にお立ち寄りになると良いと思います。


詳しくはこちらに書きました。

Lana-Peaceエッセイ
病気と一緒に生きていくこと
「縄文時代、四肢麻痺を生き抜いた人
 1. 北海道 入江貝塚・後編(現地訪問記)」
http://www.lana-peace.com/1/1-1-102a.html
http://www.lana-peace.com

2015年11月09日

こどもたちも博物館へ行こう! ベビーカーと車椅子貸出(ソウル・国立中央博物館)

ソウルの国立中央博物館は
ベビーカーと車椅子の貸し出しを利用できます。
かなり床面積広いので、こども連れの方には便利ですね。
そして、いつもは松葉杖のこどもたちにも
車椅子が貸出してもらえるのは嬉しいところ。

1階のカウンターはこんな感じ。
DSC05898.jpg

ハングル・英語がわからなくてもOK!
中国語が併記されていますので
一部旧漢字が使用されているけど、
日本人にとってはよくわかりますものね。
@は乳母車貸与、Aは輪椅貸与と書いてあります。
DSC0589.jpg

「乳母車」、なんとクラシカルな響きが…
そして「輪の椅子」。なるほど。

Bはマークだから、みんなわかりますね。
DSC0589-1.jpg

当日、通常展示に驚くほどこどもの数が多くてびっくり。
どうしてこんなにこどもがいるの?って。
学校の引率みたいな感じできている方もいらっしゃるし
ご家族連れで来ている方もいらっしゃるし…
通常展示は無料だというのもその一因かもしれませんが。
雨の日のおでかけにもぴったりなのかな?

こどもが「これなに?」「なに?」と
興味を示すものに、大人も「なんだろね?」って
一緒に見ている姿は、いいものですね。

日韓の歴史教育、国の違いで理解のスタンスは違うだろうけど
小さい頃から自国の文化、あるいは他国の文化に触れて
「これなに?」って知ろうとする力は
何らかの形で、きっと大きな発展につながるはず。

それにお子さんが小さいと、ご家族にとってもアートに触れる時間って
いつも使う気持ちの引き出しとは違う引き出しを使うから
きっとリフレッシュになると思うんだけどな。

2015年10月03日

ルノワール「赤い服の女」「読書する女」(東京富士美術館所蔵)

先週、東京富士美術館(八王子市)に行ってきました。
Lana-Peaceのエッセイではルノワールの作品を
6回に分けてご紹介したことがありますが、
今回常設展示でルノワールの作品を2点、見ることができました。

ルノワールは50代半ばを過ぎた頃から、
リウマチによる身体の異変が徐々に現れはじめ、
だんだん悪化してったのですけど、
こちらの作品は症状が出る前のあたりの作品。

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赤い服の女
ピエール=オーギュスト・ルノワール
1892年頃
油彩、カンヴァス
65.4×54.5cm
東京富士美術館所蔵
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そしてこちら1900年頃の作品は、すでに関節の症状が
すでに出ていたと考えられる時のもの。

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読書する女
ピエール=オーギュスト・ルノワール
1900年頃
油彩、カンヴァス
56.0×46.0cm
東京富士美術館所蔵
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発病前後を比べてみても、
ちっとも遜色ないように見えます。

画家にとって、手指の関節の微妙な力加減を調整したり
思うように絵筆を動かせないことは
大ショックだと思うけれど、
できるかできないかを決めるのは
自分自身の心次第なんだなあ…。
絵の前でそんな風に思いました。


※絵画撮影は職員の許可を得たものです。