2017年03月12日

研修会「医療的ケア児と家族を地域で支える」より考えた事 2 お子さんがハッピードミノの一番目になるために

「重い病気を持つ子どもと家族を支える財団」主催研修会
「医療的ケア児と家族を地域で支える」(2017/3/11 東京)1日目

福井でこどもの在宅医療に取り組んでいらっしゃる
「オレンジホームケアクリニック」の紅谷浩之先生が登壇されました。
紅谷先生はこどもたちは医療に支配されず、生活と成長を楽しむべき
というように「生活」をとても大事に考えています。
そして「病状よりも生き辛さを改善していく」ことをキーワードに
診療に当たられているそうです。
「ドクターストップ」から「ドクターゴー」ができる医師でありたいと。

それはどういうことか?
例えばお子さんが人工呼吸器を付けたまま、退院しなければいけない場合
家の中でおとなしく、閉じこもっているのではなく
「人工呼吸器があるから、さあ、どこにでもいけるね!」と考える。
泳ぎの苦手な子は浮き輪を使えば、楽しく泳げる。
それと同じように、呼吸に問題を抱えている子は、
呼吸器を使えば呼吸が楽になる、という発想だそうです。

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学校卒業後、行き場がないというあるお子さんの現状から
紅谷先生が立ち上げることにした「オレンジキッズラボ」。
そこに通うあるお子さんの親御さんの言葉が
とても印象的でした。
そのご家庭は4人家族。
父母と上のお子さんと病気のお子さん。
お母様はキッズケアラボにお子さんを預けて
「仕事をする」という選択をされました。
その理由は
「これで歩みを止めたら、○○ちゃんに失礼でしょ。」

ああそうか、そういう考え方もあるのか…って思いました。
新しく生まれた末っ子ちゃん、
たまたま末っ子ちゃんは重い病気があった。
末っ子ちゃんも含めて、みんなで家族。
そのみんなが、生きていくために
自分は仕事に出かけてて、生計を立てていく。
そういう日々の営みを大事にしたいという気持ちは
別に末っ子ちゃんを軽んじているわけではなく
末っ子ちゃんを特別視しないで、家族の同じ一人として、
考えていることの表れとも言えるのではないかな。

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それから自分で気管切開孔からチューブを入れて吸引する
3歳のお子さんの写真が紹介されました。
こどもが吸引?
感染対策、清潔操作、チューブの誤挿入による出血…
医療者の視点では心配事を挙げればきりがありません。
でも、なぜお子さんにそうさせるのか?
そのお母様の発想はとても「力強さ」がありました。

自分がごみ出しにちょっとの間、外に出てた時、
その間に、もしもお子さんは痰が詰まったら
お子さんはただ待っているだけなのか?
じゃあ、親はごみ出しにさえも、いけないのか…?

お子さんが自分でできるならば、
自分でやる、やらせてみる。
それは「生活者」ならではの視点ですね。
たとえ医療者の懸念するような感染、出血…そんな事態が起こっても
今この瞬間に「自分ができる最善のことをする」ことは
様々なリスクを引き受けながら、最善の結果を出すことに
つながるのではないかと思います。
だって痰が詰まっている時は、
とにかく「痰を取り除く」ことが一番なのですから。

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そして脳腫瘍術後で右半身麻痺だったお子さんが
特別支援学校に通うことを検討していたけれど、
同級生が一人もいない、という理由から
一般の小学校の普通級に通うことにした
お話が紹介されました。
そのお子さんは、もちろんできないこともあります。
でも、医療の常識をはるかに超える勢いで
いろいろなことができるようになっていきました。
右手が不自由なために左手で字を書いていたけど、
お習字は右手で筆を持って書くようにしたら
とても立派な美しい、力強い字を書けるようになりました。
「かぜ」と書かれたそのお習字
新緑を駆け抜けるような
伸びやかで、爽やかな風をイメージするような字でした。

そして学校から本を3回「音読」する宿題が出された時
お祖母ちゃまは「声の出ない子に、何と残酷な宿題…」と思ったそうですが
そのお子さんは自分でiPadに文字を打ち込んで、
再生ボタンを3回押して、音読の宿題をしたことにしたそうです。
こどもの心は軽やかですね。
大人は「かわいそう」「気の毒」「傷つく」と思うようなことも
お子さんは、自分でそれを乗り越えていく知恵と力を
携えているのです!


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紅谷先生は医療的ケアを必要とするこどもの日常生活を
「白、黒、グレーだけじゃなくて、もっとカラフルなはず。」
そんな風におっしゃっていました。

規則の多い病院から退院して、
自宅に帰ったからこそできること、
それはいっぱいあるはず。
そのチャンスをめいっぱい活かして
そのお子さんの秘めた能力をどんどん開花させていけると
本当に良いですよね。

重い病気のお子さんに、周囲は「不憫な子」というまなざしを
向けてしまうかもしれない。
でも紅谷先生はいくつかの例を通して
ハッピードミノの最初のドミノを倒したのは、病気のお子さんだと
仰っていました。
いろいろな気付きをもたらしてくれるのは、病気のお子さん。
そしてそこから、何かアクションが起きて、世の中良いように変わって行っても
やっぱりそれは元をたどれば、病気のお子さんがハッピードミノの一番目。

きっとそれは、重い病気を持ってこの世に生まれ出てきたお子さんが持つ
大切な使命の一つなのかもしれない。
とても力強くて、崇高な使命。
だから「不憫」っていう言葉は、似つかわしくないですね。