2016年11月09日

実に良い場所です 常盤湯(東京都江東区)

今日は江東区常盤の「常盤湯」のご紹介です。
ここの常盤湯さんが実に良い所だと聞いて
私は初めて行ってみました。

都営大江戸線清澄白河駅のA1番出口を左折して
小名木川を渡ると、数分で到着します。

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下駄箱をあがると番台までの廊下には、
もうすでに美しい格天井が…
あまりの美しさに、写真をパチリ。
後で伺うと、常盤湯の建物は
木場出身の店主の山本さんが
自分で丸太1本、1本を選び抜いて建てたもの。
木材を見たら、どれが良い木か
ぴたりと分かるのだそうです。
その山本さんの選んだ木を使って、
そして深川不動堂も手がけられた宮大工さんに
昭和30年、この銭湯を建ててもらったというわけです。

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宝船のタイル絵も美しいです。

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そしていよいよ、女湯へ。
店主の山本さんが、番台に座って
毎日お客さんをお迎えしています。
茶色のベレー帽に青いシャツで
とてもおしゃれな方です。

ずっと営業時間中、
狭い小さな空間にきちんと座っているのは
随分、骨の折れることだろうと思います。

御年100歳の小柄な山本さんは
番台の両端に目隠し用に造られている
波模様の美しいついたてを両手でつかんで
身体を支えられていました。

回数券を使えますか?と尋ねると
「はい、ありがとう。どうぞ、ごゆっくり。」と
山本さんが、答えてくれました。

脱衣室のロッカーや床などは古いけれども
とても清潔です。
場の気が非常に整えられている感じ。
陰湿な感じはないし、非常に清々しい。
そしてノスタルジックな雰囲気。

山本さん曰く、その宮大工さんは
「時給いくら」だからやるような人ではなくて、
自分の仕事にプライドをもって取り組んでいる方。
その姿を見て山本さんはとても、感銘したそうで
宮大工さんの気概に応えるために、
今まで壁には一切、画鋲をうったことがないそうです。

そしてもう60年以上たっていますが、
建物はちっともゆるみがないそうです。

脱衣室と浴場との間にはこんな貼り紙が。
「浴槽のふちに腰かけないで下さい。他人様が困ります。」

今時の観光地トイレなどでは、わざと
「いつもきれいに使ってくださって、ありがとうございます」と
注意喚起を促すための逆説的な表現がとられたりしているけど
こんなふうに必要なことがストレートに、書かれていながらも
でも、何か自然に浸透してきます。

「他人様が困ります。」

「自分」「自分」じゃなくて
そして「他人」じゃなくて「他人様」
とても山本さんの人柄が現われている言葉です。

浴場に入ると、見上げた天井の高さと白さに驚きます。
水色の線もとってもさわやか。
黒かびなんて、どこへやら。
清潔そのもの。

男湯と女湯を隔てる壁に描かれている絵は
向かって右手には遠くにピラミッドが見えるサバンナで
象、キリン、シマウマ、猿が自由に戯れている図柄。
向かって左手は数種類の魚が水中を楽しそうに泳ぐ絵。
どの動物、魚たちも、とても優しい表情です。

お湯の中から眺めていると
遠い世界に連れて行ってくれそうです。

そして湯船を背景として男湯、女湯の境を中心に
雄大な富士山と浜辺の松原が。

横長の大きな浴槽は三つに分かれて
高温、バブル湯、低温とありますが
低温といってもその時は42℃くらいあって、
かなり熱め。
寒い時期でも、湯上り、とてもほかほかです。

こちらの常連さんたち
実に客層が良くて、
静かに「お願いします」「こんにちは」と入ってきます。
お風呂の中でわーわー大騒ぎしたり
噂話や悪口で盛り上がっているような人は
一人もいなくて、びっくり。
(私が行った時間帯だけかもしれないけど…)
静かに、自分のペースでお湯を楽しみ、
黙々ときれいに洗って、
静かに言葉を交わして
それぞれのおうちに帰って行かれています。
だから、騒々しさとは無縁の
穏やかな空気でいっぱいです。

山本さんは番台で下を向いていても
お客さんが帰る時には必ず
顔を上げて「ありがとう。おやすみなさい。」と
声をかけていました。

山本さんからお話を伺った後、帰り際に
「ご縁があったら、またどうぞ」と
声をかけてくださいました。
握手した手は、実にあたたかい手でした。

美しい日本語。
「ご縁があったら、またどうぞ」

ドラマの台詞じゃなくて
ありふれた日常生活の中で
ふとした会話の中で、
そういう言葉が、口をつくことに
とっても感動しました。

山本さんはお話される時の声は
大変若々しくて、言葉もはっきりされています。


山本さんの働く姿、人と接する姿を見て
とても考えるところ、多くありました。
人生100年生きた時、
自分にそういう時間が与えられた時
100歳の自分はそんな風でいられるんだろうか…
いや、到底足元に及ばない。


私が拙い言葉で、あれこれ述べなくても
ぜひぜひ、一度足を運んでみてほしいと思います。
きっと、何かを感じられる場所だから。

神様が人間界に姿を変えてやってきた
そういう感じがいたしました。